密着・付着・接着
「密着」「付着」「接着」はすべて “くっつく” ことを指し、塗料の専門家の間でも混同されがちですが、材料工学・塗料工学では “どの程度の強さで、どんな機構で、どの段階で” くっついているかによって区別されます。
付着は界面に“くっつく”現象そのものを指す広義な定義です。これに対し、密着は付着の“強さ”に焦点を当てた概念で、塗料業界でよく使用されます。接着は接着剤による“構造的な結合”を含む強固な結合を指し、接着剤を使う前提での用語で、構造体としての強度が要求され、塗料の密着とは目的が異なります。
以上の理由から、本稿では塗料が被塗物から「どれだけ剝がれにくいか」という意味での密着を使用し、塗料に添加され密着を促進する密着性付与剤について解説します。
塗料の密着性の発現機構と密着性付与剤
塗膜が被塗物へ密着するメカニズムには、図1に示す3つのメカニズムがあります。これらは、どれかが選択的に働くのではなく、程度の差はあっても同時に作用すると考えられています。

図1 塗膜の密着性発現機構
① 界面結合
塗料と被塗物の界面で、水素結合や化学結合などの強い相互作用が生じ、密着力が発現します。主剤樹脂の持つカルボキシル基や水酸基、エポキシ基などの極性官能基の量を多くすると、密着性が改良される例が多く報告されています。これは、これら官能基が被塗物表面に存在する水酸基などの極性官能基と、水素結合や化学反応することが原因とされています。
また、工業塗装などで使用される2コート塗装のポリオール/メラミン樹脂塗料などでは、ベース塗膜表面に水酸基が残留していて、クリアーコートのメラミン樹脂と反応することによって強い密着力が生じるとされています。
② 相互浸透
液状の塗料が被塗物を膨潤させ、ビヒクル成分が被塗物中に浸透して相互に混ざり合った部位が形成されることで密着力が発現します。被塗物がプラスティックの場合や、下塗塗膜への上塗の塗装などのような場合が該当します。
基本的には、塗料に含まれる溶剤やバインダー樹脂のSP値が、被塗物のSP値に近いほど、よく交じり合うので良好な密着性が得られます。
③ 投錨効果
被塗物表面に凹凸がある場合に、凹部に塗料が入り込み硬化することで、機械的な密着力が発生します。アンカー効果とも呼ばれます。
この効果が発現するためには、凹凸のある被塗物表面に対する塗料の濡れが良いことが必要です。塗料の表面張力が低いほど、また、被塗物の表面張力が高いほど良好となります。塗料の表面張力は、概ね溶剤によって支配されますので溶剤選択が重要となります。
塗装前に被塗物のブラスト処理を行うと塗料の密着性が向上するのは、表面に凹凸ができて投錨効果が発現しやすくなるのと、被塗物表面の脆弱な部分や付着物の層(Weak Boundary Layer; WBL)が取り除かれるためです。
このように、塗料に含まれる主剤樹脂のSP値や水酸基価・酸価、溶剤の種類(表面張力、SP値)は密着性に重大な影響を及ぼしますが、樹脂と溶剤の設計・選択だけでは十分な密着性が得られないときに、塗料に添加されるのが密着性付与剤です。
密着性付与剤の種類と作用機構
塗料用の密着性付与剤は、大きく「化学結合型」「界面制御型」に分類できます。「化学結合型」は基材表面の官能基(–OH、–NH₂、金属酸化物)と化学反応して結合を形成するタイプで、図1の分類では①の界面結合を促進します。
「界面制御型」は濡れ性・極性・相溶性を調整して密着を改善するタイプです。基材表面との化学結合は形成しませんが、酸塩基相互作用や水素結合のような強い相互作用形成(図1の①)したり混合層を形成(図1の②)したりして密着を促進します。
① シランカップリング剤(化学結合型)
最も広く使われる密着性付与剤で、無機基材(ガラス、金属酸化物、セメント、鉱物充填材)に特に有効です。無機基材に最強クラスの密着性を示し、低添加量(0.1–2%)で効果大です。
シランカップリング剤は図2に示すように、1つの分子中に反応性の異なる2種類の官能基を持っています。

図2 シランカップリング剤の一般的な形状
作用機構は、次の通りです。
・アルコキシシリル基(Si-OR)の加水分解 → シラノール生成 (Si-OH)→ 基材表面の水酸基(M-OH) と縮合反応(Si-O-M 結合の生成)
・反対側の官能基(X:アミノ基、エポキシ基、メタクリル基、イソシアネート基など)が樹脂と反応
結果として「基材–シラン–樹脂」の化学的な橋架けが形成されます。
代表的なタイプと適した塗料用樹脂は以下の通りです。
・アミノシラン(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂)
・エポキシシラン(エポキシ樹脂、ウレタン樹脂)
・メタクリルシラン(アクリル樹脂、UV硬化樹脂) ・イソシアネートシラン(ポリオール樹脂、反応性高いが湿気に敏感)
② チタネート/ジルコネート系カップリング剤(化学結合型)
金属、酸化物、顔料、樹脂など幅広い基材に有効です。
作用機構は、まず、カップリング剤が基材表面の水酸基と反応して基材表面を有機化します。有機基が樹脂と相溶または反応し、界面のエネルギーを低下させることで、密着性が向上します。
樹脂の極性に合わせて選択可能で、シランカップリング剤が効きにくい基材(ポリオレフィン系)にも有効ですが、高温環境での耐久性はシランカップリング剤に劣る場合があります。ネオペンチルジルコネートやイソプロポキシチタネートが代表例です。
③ リン酸エステル系(化学結合型、特に金属基材向け)
リン酸もしくはピロリン酸のアルキル(C8-C18)エステルもしくはアリール(フェニル)エステルです。鉄、アルミ、亜鉛など金属基材への密着性向上に効果的で、防錆性も付与します。
作用機構は、まず、金属表面へリン酸基が強く吸着(化学吸着)して、表面に薄いリン酸塩層を形成し塗膜とのアンカー効果を増強します。樹脂側とはエステル基の極性相互作用(水素結合や双極子-双極子相互作用)で密着します。
プライマーや防錆塗料で広く使用され、水系塗料でも安定ですが、過剰添加で逆に脆くなることがあります。
④ 低分子エポキシ化合物(化学結合型)
金属・コンクリート・木材などの基材に有効です。
フェニルグリシジルエーテル(PGE)、ブチルグリシジルエーテル(BGE)、グリシジルネオデカノエート(GND)、Denacol EX系などが代表例です。
エポキシ基が基材表面の -OH、-NH₂ と反応し、樹脂側とは硬化反応で架橋します。
⑤ ポリオレフィン系密着向上剤(界面制御型)
PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン) など低極性樹脂への密着性を改善します。マレイン酸変性ポリオレフィンが代表例で、自動車バンパー塗装では必須となっています。
作用機構は、マレイン酸変性ポリオレフィンが基材と相溶します(相互浸透相の形成)。無水マレイン酸基は樹脂の極性基と相互作用し、結果として「基材側は相溶、塗膜側は極性相互作用」という二面性を持ち、密着性が向上します。
⑥ ウレタン系密着向上剤(界面制御型)
ウレタン結合(–NH–CO–O–)とポリエーテル鎖を持つ柔軟な低分子もしくはオリゴマーです。添加により、基材と塗膜の界面に柔軟で極性のある遷移層(応力緩和層)を形成し、密着を改善します。ABS、PVC、PCなどのプラスティック基材ではポリエーテル鎖が混合層を形成します。
⑦ アクリル系密着向上剤(界面制御型)
構造中にカルボキシル基(–COOH)、水酸基(–OH)、場合によってアミド基(–CONH–)などの極性基を高密度に持つアクリルポリマーもしくはオリゴマーで、分子量・Tg・極性基量が基材/塗膜界面に富化しやすいように設計されています。
金属酸化物・ガラス・鉱物・木材などの表面水酸基と、カルボキシル基や水酸基の相互作用で基材界面に配向し、主樹脂の水酸基(アクリル、ポリエステル、ウレタン)、カルボキシル基(アクリル)。アミド基(ウレタン)とも極性相互作用することで、基材–アクリル密着剤–主樹脂という極性ネットワークが界面に形成されます。
基材への初期濡れ性を改善し、基材表面の微細な凹凸への追従性が上がります(図1の③)。
また、アクリル系密着剤は、主樹脂よりもやや低いTgに設計されることが多く、界面応力を吸収し、剥離を防ぐクッション層として働きます。
基材別の最適密着性付与剤
表-1に基材別に最適な密着性付与剤の種類を示します。なお、密着性付与剤は塗装後に塗料から分離して基材との界面に配向する必要がありますので、塗料中のバインダー成分より若干、高極性(高SP値)にしておく必要があります。
これは、密着性付与剤がバインダー成分より低極性(低SP値)であれば、低極性気体である空気に引き寄せられて、塗膜表面に移行してしまい密着性に寄与しないからです。また極性(SP値)が塗料ビヒクル(バインダー+溶剤)と大幅に異なると、塗料中で分離してしまいます。
表1 基材別の最適相溶性付与剤
