エマルション樹脂の造膜機構
エマルション樹脂は一般的な溶解型樹脂のように溶剤中に鎖状で溶解しているのではなく、粒子状で分散しており、粒子サイズは50~300nmです。このため、図1に示すように、造膜メカニズムも溶解型樹脂と異なります。溶解型樹脂は樹脂鎖がくっつきあったり絡み合ったりして被膜を形成するか(ラッカー型)、鎖間に化学反応による架橋が生じて(熱硬化型)被膜を形成しますが、エマルション樹脂は粒子同士が融着して被膜を形成します(最近では表面の官能基で粒子間の架橋反応が生じるタイプのエマルション樹脂も存在)。イメージでいうと柔らかいお団子がくっつくようなイメージです。

図1 エマルション樹脂と溶解型樹脂の造膜機構の比較
柔らかいお団子はくっつきますが、固くなったお団子はくっつきません。同様に、エマルション樹脂粒子にも固いものと柔らかいものがあり、固いものはそのままでは融着しないので、乾燥させても被膜が得られません。エマルション樹脂の固さは温度によって変化し、高温では柔らかく、低温では固くなります。従って、エマルション樹脂は、低温で乾燥させた場合には、連続した被膜は得られませんが、ある一定の温度以上で乾燥させると連続被膜を形成するという性質があります。この連続被膜を形成する最低の温度を最低造膜温度(MFT; Minimum Film-forming Temperature)といいます。
造膜助剤の働き
MFTが低い程、低温でも造膜性があり、冬場や低温でも塗装作業ができますが、反面、塗膜は柔らかくなって力学的強度が不足するなどの欠陥が生じやすくなります。造膜助剤(Coalescent)は、エマルション樹脂塗料に添加され、MFTより低い温度環境でも、エマルション樹脂粒子(の表面)を軟化させて連続膜を形成させるための高沸点有機溶剤系添加剤です。固くなったお団子に浸み込んで表面を柔らかくする働きと言えます。
造膜助剤を塗料に添加することにより、MFTよりも低い温度でも塗装作業を可能にします。沸点が高く、塗装後しばらく塗膜中に残存しながら粒子を柔らかく(可塑化)し、その後ゆっくり揮発して最終的な塗膜硬度・耐久性を確保します。
造膜助剤の種類
造膜助剤の代表例としては表1に示すようなものがあります。
表1 水性エマルション樹脂塗料用造膜助剤

• イソ酪酸エステル系: 最も一般的な造膜助剤で、揮発が遅く成膜に十分な時間を与えます。
• エチレングリコールエーテル系: 揮発性が高いので乾燥は速く、また、塗料の基材への濡れを改善します。ただし、臭気や毒性(皮膚吸収性がある)が高めで、VOC規制により使用が減少傾向にあります。
•プロピレングリコールエーテル系:揮発性がやや低く乾燥は穏やかです。エチレングリコールエーテル系よりも臭気や毒性が低いので、内装・低VOC用途で主流となっています。
表1に示した造膜助剤の他にも、非VOC/低VOCの造膜助剤として、ポリマー(高分子)系、反応型、低VOC特殊エステル系の造膜助剤が注目されています。
ポリマー系にはポリエステル系可塑剤(高分子量)、ポリカーボネート系可塑剤、高分子量アクリレート可塑剤(塗膜中に固定化されるタイプ)などがあり、分子量が高いので、ほとんど揮発せず、塗膜中に“残留”して可塑剤的に働きます。このため、塗料の総VOC量(TVOC)への寄与は極めて小さくなります。
反応型には反応性アクリレートモノマー(低刺激・低臭気タイプ)や反応性ウレタンプレポリマー(低官能で可塑化作用を持つもの)などがあります。乾燥後に樹脂と化学反応して塗膜に取り込まれ、揮発しないためTVOC寄与がほぼゼロで、造膜助剤というより“反応性可塑剤”に近いと言えます。
低VOC特殊エステル系の造膜助剤には、ジエチレングリコールジベンゾエート、ジプロピレングリコールジベンゾエートなどのジ安息香酸エステル系のものが知られています。従来の可塑剤より揮発性が低く、TVOCを抑えられます。米国・欧州で室内塗料向けに増加しています。
造膜助剤の添加量は、塗料固形分の3~10%程度が一般的で、過剰添加は乾燥遅延やブロッキング、耐水性低下の原因になります。