光重合開始剤とは
UV硬化型塗料は、光照射により瞬時に架橋硬化する塗料であり、その反応を開始する役割を担うのが光重合開始剤(Photo initiator)です。光重合開始剤は、光を吸収して励起状態となり、ラジカルまたは酸を生成することで重合反応を開始します。
塗料分野ではアクリレート系樹脂を硬化させる光ラジカル開始剤が主流ですが、エポキシ樹脂などを硬化させる 光カチオン開始剤(光酸発生剤)も特定用途では重要な役割を果たします。
本記事では、光重合開始剤の反応機構・特徴・用途を簡単に説明します。
光重合開始剤の分類
光重合開始剤は、光照射後の反応様式により、大きく光ラジカル重合開始剤と光カチオン重合開始剤に分類されます。
① 光ラジカル重合開始剤
光を吸収してラジカルを生成し、アクリレートモノマーの付加重合を開始します。反応様式により Type I(分子内開裂型)と Type II(水素引き抜き・電子移動型)に分類されます。
①-1 Type I:分子内開裂型
光照射により開始剤分子が均等開裂し、下記の模式通り2つのラジカルを直接生成します。
PI + hν → PI* → R• + R’•
(PI:光重合開始剤、 hν:光エネルギー、PI*:励起状態のPI、
R•、R’•:ラジカル)
このタイプの光重合開始剤の代表例は下記の通りです。
・ベンジルケタール系
・α-ヒドロキシアセトフェノン系
・α-アミノアセトフェノン系
・アシルホスフィンオキシド系
図1にベンジルケタール系の一つであるベンジルジメチルケタールのラジカル生成反応を示します。

図1 ベンジルジメチルケタールのラジカル生成反応
①-2 Type II:水素引き抜き型・電子移動型
光照射により励起した開始剤が他分子(主にアミン)から水素を引き抜く、または電子移動を起こすことでラジカルを生成します。
- 水素引き抜き型(ベンゾフェノン系)のラジカル生成
PI* + RH → PI-H + R•
- 電子移動型(チオキサントン系)のラジカル生成
PI* + Donor → PI•– + Donor•+ → R•(重合開始)
(Donor:電子供与化合物(アミン))
ベンゾフェノン系とチオキサントン系(アミン併用)が、このタイプの代表例であり、単独では反応性が低いですが、アミン併用で高感度化します。
図-2にベンゾフェノンの光照射によるラジカル生成反応を示します。

図2 ベンゾフェノンからの光照射によるラジカル発生(水素引き抜き型)
② 光カチオン重合開始剤(光酸発生剤)
光照射により強酸(H⁺)を発生し、エポキシ(主に脂環式エポキシ)・オキセタン・ビニルエーテルなどのカチオン重合性モノマーを開環重合させます。
このタイプの光重合開始剤には、トリアリールスルホニウム塩、ジアリールヨードニウム塩、ジアゾジスルホン系などが含まれます。
ラジカル重合と異なり、酸素阻害を受けません。また、エポキシ樹脂などの開環重合なので、収縮が小さく、密着性・耐薬品性に優れています。
乾燥後も暗反応で硬化が進行しますが、水分の存在で反応の進行が阻害されます。
光重合開始剤の用途
① 光ラジカル開始剤の用途
・UVインキ
・木工用 UV 塗料(不飽和ポリエステルアクリレート、ウレタンアクリレート)
・プラスチック用クリヤー
・ハードコート
・一般工業用 UV 塗料
② 光カチオン開始剤の用途
アクリレート系ほど一般的ではありませんが、以下のように、ラジカル系では得られない物性(耐熱・耐薬品性・寸法安定性)が求められる用途では重要性が高いです。
・金属缶用コーティング(低収縮・高密着)
・電子材料用絶縁コート(耐熱・耐薬品性)
・光硬化型接着剤(ガラス・金属)
・光造形(3Dプリンター)
・フォトレジスト
光重合開始剤の選定指針
・厚膜・白色・顔料系 → アシルホスフィンオキシド系
・透明用途→ α-ヒドロキシアセトフェノン系
・可視光対応→ α-アミノアセトフェノン、チオキサントン(アミン併用)
・黄変性→ ベンジルケタールは黄変しやすい
→α-ヒドロキシアセトフェノンは黄変が少ない
・硬化深さ
→ ビスアシルホスフィンオキシドは内部硬化性が高い
→ ベンゾフェノン系は表面硬化が主体
・基材密着性
→ カチオン重合は密着性が高い
→ ラジカル系は基材前処理が重要
・環境条件**
→ カチオン重合は水分に弱い
→ ラジカル系は酸素阻害を受ける