撥水・撥油性付与剤の機能
塗料やインクなどの塗工剤に添加して、塗工後に得られる塗工膜の表面張力を低下させ、水や油に対する接触角を大きくして撥水性や撥油性(以下、両者をさす場合は「撥液性」とします。)を発現します。一般的に水に対する接触角が100°以上の塗工膜表面を撥水性と呼びます。撥油性の場合、油(ヘキサデカン等)に対する接触角が30°以上で、実務的には撥油性ありと判断されることが多いようです。塗工膜を撥水性、撥油性にすることで、水や油・インクに対するハジキ性、耐指紋・皮脂性、易拭き取り性、防汚性などの機能が得られます。
液体(水や油)と固体(塗工膜)の表面張力をそれぞれγL、γSとすると、両者の接触角は(1)式で表すことができます1,2)。

接触角θが大きい(撥液性大)ほど、cosθは小さいですから、固体(塗工膜)の表面張力γSが小さいほど接触角は大きくなります。すなわち塗工膜の表面張力が低いほど撥液性は大きくなります。また、固体の表面張力を固定して考えると、水の方が油よりγLが大きいので、撥液性は得やすいです。
接触角θが大きい(撥液性大)ほど、cosθは小さいですから、固体(塗工膜)の表面張力γSが小さいほど接触角は大きくなります。すなわち塗工膜の表面張力が低いほど撥液性は大きくなります。また、固体の表面張力を固定して考えると、水の方が油よりγLが大きいので、撥液性は得やすいです。
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塗料・インクでの具体的な用途例
上記の塗工膜の表面張力を低下させるという機能から、塗料、印刷分野で想定される用途例は次の通りです。
塗料分野
• スマホカバーガラスの耐指紋コーティング
• 金属外装の防汚・耐指紋コーティング
• 建材・木材の防汚(張り紙防止、落書き防止)・防水コーティング
印刷分野
• インクジェットプリンターヘッドの撥インク性向上
• ロールへのインク転写防止性向上 • 油性ペン・万年筆内部のインク非付着性向上
*印刷分野ではインクそのものに添加するのではなく、それぞれヘッドノズル用、ロール用、ペン・筆内面用のコーティング剤に添加されます。インクジェットノズル、ロール、ペン内部など、インクが触れる固体表面を撥水・撥油化することが本質的な課題解決策になります。ただし、ノズル吐出の安定化
やにじみ防止・濡れ性制御のため、補助的にインク側に添加されることもあります。
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主な種類と特徴、構造
一般的に、撥水・撥油性付与剤の分子は低表面張力(低表面自由エネルギー)部と、塗工剤との相溶化部から構成されています。低表面張力部は側鎖や末端にぶら下がっており、その構造からフッ素系とシリコーン系、炭化水素系に大別できます。
フッ素系は、低表面張力部が炭素–フッ素結合(C–F)を多数含むペルフルオロアルキル基(式1)で構成されており、最強の撥水・撥油性を発現します。

シリコーン系は低表面張力部が主にポリジメチルシロキサン(式2)であり、フッ素系には劣るものの強い撥水性を示します。

炭化水素系の炭化水素鎖としては、⾧鎖アルキル鎖やポリイソプレン鎖が知られています。 フッ素系、シリコーン系、炭化水素系の特徴を表 1 に比較します。
表 1 撥水・撥油性付与剤の低表面張力部の種類と特徴

低表面張力部の成分(フッ素・シリコーン・⾧鎖アルキル)は、それだけでは塗工剤のバインダー樹脂(アクリル、ウレタン、エポキシなど)とは混ざりません。相溶化部は撥水・撥油性付与剤が塗工液・塗工膜と分離しないようにします。
具体的には、バインダー樹脂と SP(溶解性パラパラメーター)値が近いことなど、親和性が高い化学構造(アクリル、ポリエーテル、ポリエステルなど)のブロックを相溶化部として、低表面張力部とのブロック共重合体 にします。
また本来、「相溶化」は物理的な混合を意味しますが、バインダー樹脂との分離を防止するために、撥水・撥油性付与剤をバインダー樹脂と化学反応により結合させることを目的として、低表面張力部の末端に相溶化部として反応性官能基が存在するものがあります。具体的には、フッ素やシリコーンの末端に、バインダー樹脂と反応するイソシアネート基、エポキシ基、アクリレート基(光硬化系)、ヒドロキシル基(2 液ウレタン)などが存在します。これにより、バインダー樹脂ネットワークに化学的に組み込まれ、分離しない・ブリードしない・耐久性が高いなどのメリットが得られます。
以下に、代表的な撥水性・撥油性付与剤の構造を示します。

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表面調整剤との違い
レベリング剤や消泡剤などの表面調整剤も低極性部と塗工液との相溶化部から構成されており(詳細は表面調整剤の記事を参照してください)、撥水・撥油性付与剤の構造と類似です。当然、レベリングや消泡と撥水・撥油という機能は異なるのですが、さらに以下に示すような違いがあります。
まず、撥水・撥油性付与剤は分子内に「極端に低極性(低表面張力)のブロック」と「樹脂親和ブロック」を共存させることにより、乾燥中に塗工膜の表面に配向し、最終的に塗工膜の表面エネルギーを大きく低下させます。一方、表面調整剤は、樹脂と相溶性を持ちつつ塗工膜の表面にやや低表面張力で均一な薄層を形成します。このため、構造は撥水・撥油性付与剤ほど極端なブロック間の差はありません。また、過剰な低表面張力部分(ペルフルオロアルキル基など)は使いません。
表 2 にシリコーン系の撥水・撥油性付与剤とレベリング剤について、両者を比較します。

撥水・撥油剤はポリジメチルシロキサン(PDMS)鎖の鎖⾧が⾧く、相溶化ブロックが少ないので、塗工膜表面に強く配向するような設計になっています。一方、表面調整剤は PDMS 鎖が短く、相溶化ブロックが多いので、バインダー樹脂中に溶け込み、一部が表面近傍に配向して表面張力を均一化します。
具体的には、シリコーン系の撥水・撥油性付与剤では PDMS(シロキサン)鎖の分子量が数千~数万が一般的なのに対し、シリコーン系のレベリング剤では Mn 500~5,000 程度が中心です。これは、PDMS 鎖が⾧いほど表面張力が低く、表面偏在が強くなるので、表面に強く配向させたい撥水・撥油性付与剤では分子量が大きく、均一な濡れ広がりが必要なレベリング剤では分子量が小さくなっています。
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文献
1)小林敏勝、「塗料大全」,p.141,日刊工業新聞社(2020)
2)小林敏勝、「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方(第 2 版)」,p.44,日刊工業新聞社(2025)