抗菌・抗ウイルス塗装は、もともと医療機関や介護施設などで限定的に使われていた技術でしたが、コロナ禍以降に公共施設・教育施設・商業施設などへ急速に普及しています。この用途に用いられる塗料は、基本的には従来のバインダーシステム+抗菌剤・抗ウイルス剤というコンセプトで設計されていますが、さらに、塗膜表面を超撥水性や超撥水性にして細菌やウイルスが付着しにくくするような工夫もされています1,2)。
抗菌・抗ウイルス塗料に配合される抗菌剤・抗ウイルス剤は、塗膜表面に付着した細菌やウイルスの増殖・生存を抑えるための添加剤です。本記事では、このような塗料に配合される抗菌剤・抗ウイルス剤について説明します。
細菌とウイルスの違い
細菌はちゃんとした細胞を持つ生き物で、細胞膜・細胞質・リボソームなど、生命活動に必要な装置を全部持っているので、自分で増殖(分裂)し、代謝する(エネルギーを使う)ことができます。このため、抗生物質が効果を示します。
一方、ウイルスは、遺伝子(RNA/DNA)とタンパク質の殻(カプシド)だけでできており、細胞がありません。従って、自分だけでは増殖できず、他の生き物(宿主)の細胞の中に入り込んで増殖します。また、他の生き物の細胞に入り込むためのスパイクと呼ばれる突起を持っています。さらにエンベロープと呼ばれる宿主細胞から奪った脂質二重膜を持つ、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、HIVウイルスなどのウイルスもあります。
大きさに関しては、細菌が1~10μmであるのに対し、ウイルスはその1/10~1/100程度です。このように細菌とウイルスは構造も大きさも異なるので、抗菌、抗ウイルスのアプローチも表1に示すように変わってきます。
表1 抗菌・抗ウイルスのアプローチ法の比較

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抗菌(Antibacterial)の考え方
対象となるのは大腸菌、黄色ブドウ球菌、MRSA などの細菌(バクテリア)です。細菌は細胞膜・細胞壁を持つ生きた細胞で、自己増殖し、代謝酵素を持つという特徴があります。従って、抗菌剤の主な作用は、細胞膜破壊(界面活性剤型、金属イオン)や酵素阻害(Ag⁺、Zn²⁺、イソチアゾリノン)、DNA複製阻害(Ag⁺)となり、細胞としての生命活動を止めるのが目的となります。抗菌性の評価規格としてはISO 22196 / JIS Z 2801(細菌の増殖抑制)があります。
抗ウイルス(Antiviral)の考え方
対象となるのはインフルエンザウイルス、ノロウイルス、コロナウイルスなどです。ウイルスは細胞ではないので代謝を持ちません。また、自己増殖できず、宿主細胞に侵入して複製します。
ウイルスは細胞ではないため、抗ウイルス剤の作用点は抗菌とは異なります。抗ウイルス剤はエンベロープ破壊(第4級アンモニウム塩、金属イオン)、タンパク質変性(Ag⁺、Cu⁺/Cu²⁺)、RNA/DNAの損傷(光触媒、金属イオン)、ウイルス粒子の吸着阻害(表面改質型)によってウイルスを不活化(感染性を失わせる)します。
エンベロープ(脂質膜)は持つものと持たないものがありますが、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、HIVウイルスなどのエンベロープありウイルスは、脂質膜が壊れると感染力を失うので、界面活性剤やアルコールに弱いという性質があります。一方、ノロウイルスなどのエンベロープなしウイルスは、構造が堅牢で不活化しにくいので、Cu系や光触媒など、より強力な手段が必要となります。
評価規格としてはISO 21702(ウイルス量の減少率)があります。
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抗菌剤・抗ウイルス剤の作用機構と主な種類い
- 銀系(Ag⁺)抗菌剤
細菌に対して、Ag⁺が細胞膜タンパク質と結合し、膜機能を阻害します。また、酵素活性阻害やDNA複製阻害により細胞としての生命活動を止めます。 ウイルスに対しては、エンベロープやタンパク質変性を誘導し、ウイルスを不活化します。
耐熱性・耐候性が高く、塗料焼付工程にも適合します。また、徐放性により長期間効果が期待できます。ただし、樹脂との相互作用(相溶性)で分散性が課題になることがあります。
代表例としては、銀イオン担持無機材料(ゼオライト、ガラス、リン酸塩)やナノ銀(AgNP)があります。
2. 銅系(Cu⁺/Cu²⁺)抗菌剤
金属イオンにより細菌に酸化ストレスを付与したり、細胞膜を破壊したりします。また、タンパク質変性作用がありRNAウイルスに対して比較的強い
効果を示します。
コストは比較的安価ですが、変色(緑青)や樹脂との反応、塗膜色調への影響に注意が必要です。
代表例としては、Cu₂Oナノ粒子、銅イオン担持無機材料(ゼオライト、シリカ)、金属銅微粒子があります。
3. 亜鉛系(Zn²⁺)抗菌剤
酸化亜鉛(ZnO)と亜鉛ピリチオン(ZPT)が代表例です。
作用機構は細胞膜損傷、酵素阻害および光触媒的な活性酸素生成(ZnO)です。白色顔料としても扱いやすく、紫外線下では高い活性を示します(ZnO)が、ZPTは水系塗料系での安定性に注意が必要です。
4. 有機系抗菌剤(第4級アンモニウム塩、イソチアゾリノンなど)
作用機構は、細胞膜の界面破壊(界面活性剤型)や酵素阻害(イソチアゾリノン)です。即効性は高いのですが、耐熱性・耐候性は金属系より弱く、規制(特にEU)にも注意が必要です。
5. 光触媒系(TiO₂)抗ウイルス剤
UV光照射下で活性酸素(•OH, O₂⁻)を生成し、細菌・ウイルスを不活化します。無機系材料なので触媒自体の耐久性は高いですが、塗膜の白化や光沢低下には注意が必要です。また、室内用途では可視光応答型TiO₂が必要です。
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文献
1)Zhang, X., et al.,“Superhydrophilic coatings for antifouling and antimicrobial applications.”,Progress in Materials Science, 74, 1–56 (2015)
2)Jiang, S., et al.,“Superhydrophobic surfaces reduce viral adhesion.” ACS Applied Materials & Interfaces, 12(5), 5679–5686 (2020)