エポキシ樹脂は、塗料分野では防食性や密着性に優れた代表的な樹脂として広く用いられています。特に金属用下塗り塗料や重防食塗料では、欠かせない樹脂の一つです。
本稿では、エポキシ樹脂の基本構造、特徴、塗料用途での利用形態、さらに塗料以外の代表的な用途について解説します。
エポキシ樹脂とは
エポキシ樹脂は、三員環構造であるオキシラン環(エポキシ基)を、基本的には分子内に2個以上有する化合物です(図1)。
図1 ビスフェノールA型エポキシ樹脂
図2 ノボラック型エポキシ(a)、脂肪族エポキシ(b)、脂環式エポキシ(c)の例
オキシラン環にメチレン基が結合した構造はグリシジル基と呼ばれ、塗料用エポキシ樹脂の多くはこのグリシジル基を反応点として硬化反応が生じます。
塗料用途で最もよく使用されるのは、ビスフェノールA型エポキシ樹脂であり、ビスフェノールA(BPA)とエピクロルヒドリンの縮合反応により得られます(図1)。
このほか、ノボラック型エポキシ樹脂、脂肪族エポキシ樹脂 、脂環式エポキシ樹脂などがあります(図2)。
さらに塗料分野では、「エポキシ樹脂」と称しながらエポキシ基が残存しないタイプも存在します。これは、エポキシ基をあらかじめアルコールアミン等で開環させてポリオール化したもので、1液常乾さび止め塗料や変性樹脂の原料として広く利用されています。
エポキシ樹脂の特徴
塗料分野でエポキシ樹脂といえば、一般的には図1のビスフェノールA型エポキシ樹脂を指します。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、以下のような特性を持つことから、塗料用樹脂として重要な位置を占めています。
① 優れた耐食性・耐薬品性
架橋密度が高く、高極性の骨格を持つため、酸・アルカリ・溶剤に対して高い耐性を示します。
② 金属への密着性が極めて良好
主鎖に存在するフェノキシエーテル結合の酸素原子が金属酸化膜と相互作用する1)ことに加え、硬化反応の進行に伴い多数生成する水酸基が金属表面の酸化膜と強い水素結合を形成するためです。
また、エポキシ樹脂は極性の高い骨格を有しており、金属表面との親和性が高いことも密着性向上に寄与します。
③ 高硬度・高強度だが脆い
架橋構造が強固である一方、衝撃に弱く脆性が高い という欠点があります。
④ 紫外線に弱く、耐候性は不良
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は芳香族骨格が光劣化を受けやすく、屋外暴露では黄変・チョーキングが発生します。
ただし、脂環式や脂肪族のエポキシ樹脂は、芳香族骨格を持たないため紫外線劣化を受けにくく、ビスフェノールA型エポキシ樹脂に比べて耐候性・耐黄変性に優れています。
エポキシ樹脂の塗料での利用形態
金属への密着性が良好な反面、耐候(光)性は不十分なので、防食を目的とした下塗り塗料(いわゆるサビ止め塗料)を中心に、以下のような形態で使用されます。
① エポキシ基を直接反応硬化させるタイプ(2液型・1液加熱型)
エポキシ基とアミノ基の付加反応(図3)により硬化します。
脂肪族ポリアミンは常温で反応性が高く、大型鋼構造物、船舶、コンクリート構造物など、高耐食性が要求される分野で使用されます。
芳香族ポリアミンは反応性が低く、加熱硬化が必要ですが、耐熱性・耐薬品性・機械特性に優れた塗膜 が得られます。
ポリアミンの他に硬化剤として利用されるものとして、酸無水物、ケチミン、ジシアンジアミド(DICY)、イミダゾール、ポリメルカプタンなどがあり、用途に応じて硬化速度・耐熱性・柔軟性を調整できます。
図3 エポキシ樹脂とアミンの反応
② 変性エポキシ樹脂として使用するタイプ
ジアルカノールアミン等でエポキシ基を開環反応させ、水酸基を多数持ち、密着性や耐蝕性の良いポリオール樹脂として利用します。
[用途]
① 1液常乾さび止め塗料(エポキシ基は残らない)
② ポリウレタン架橋型塗料のポリオール成分
③ カチオン電着塗料の主樹脂
→ エポキシ環をアミンで変性し、カチオン化して水分散させたもの。
自動車ボディの防錆塗装で不可欠な樹脂です。
③ 粉体塗料用エポキシ樹脂
ビスフェノールA型エポキシ樹脂は粉体塗料の主要バインダーであり、硬化剤としてジシアンジアミド、酸無水物、フェノール樹脂などが用いられます。
耐食性・密着性・耐薬品性に優れますが、耐候性が乏しいため、埋設管、自動車足回り部品、屋内金属部材など紫外線の影響が少ない用途に使用されます。
カルボキシル基末端ポリエステル樹脂と併用した粉体塗料はハイブリッド型と呼ばれ、エポキシの耐薬品性・密着性を保持しながら、ポリエステルの柔軟性・加工性を付与できます。コストバランスが良く、低温硬化性にも優れるので、家電製品、事務機器、家具・什器、室内金属部材、自動車内装部品などに使用されますが、紫外線に弱いため屋外用途には適していません。
④ ノボラック型エポキシ樹脂
ノボラック型エポキシ樹脂は多官能で反応性が高く、耐熱性・耐薬品性に優れますが、粘度が高く、脆くなりやすいため、一般の液体塗料では使用が限定的です。
一方、粉体塗料では高架橋密度が利点となり、フェノール樹脂とのハイブリッド型粉体塗料や高耐薬品性・高耐熱性を要求する用途で広く利用されています。
⑤ 脂肪族エポキシ樹脂・脂環式エポキシ樹脂
脂肪族エポキシ樹脂は芳香族骨格を持たないため、耐黄変性・耐候性に優れ、主としてエポキシ樹脂の柔軟化や反応性希釈剤として利用されます。
一方、脂環式エポキシ樹脂はシクロヘキサン環を有し、反応性が高く、高硬度・高耐熱性の塗膜が得られるため、UV硬化型塗料や電子材料など高性能用途で使用されます。
塗料用途以外でのエポキシ樹脂
エポキシ樹脂は塗料用途で広く利用されていますが、その優れた接着性・耐熱性・電気特性から、電子材料・構造用接着剤・複合材料・電気絶縁材料など、塗料以外の分野でも極めて重要な樹脂です。以下に代表的な用途を概説します。
① 電子材料・半導体封止材
エポキシ樹脂は、半導体封止材(モールドコンパウンド)として最も重要な樹脂です。 ビスフェノールA型やノボラック型エポキシ樹脂をベースに、シリカフィラーを高充填した熱硬化性樹脂が用いられ、高耐熱性(リフロー耐性)、低吸水性、高い電気絶縁性、半導体チップとの密着性、成形加工性(トランスファーモールド性)などの特性が求められます。
近年は、パワー半導体や車載電子部品の高温化に伴い、高耐熱型ノボラックエポキシや脂環式エポキシの採用が増えています。
② 構造用接着剤
エポキシ樹脂は、金属・複合材・コンクリートなど幅広い基材に対して高い接着力を示すため、構造用接着剤として以下のように広く利用されます。
自動車ボディの構造接着
航空機・鉄道車両の複合材接着
建築・土木の補修・補強材
電子部品の固定・封止
高強度・高耐熱性が要求される用途では、ノボラック型エポキシ+アミン硬化剤が主流です。
③ 複合材料(CFRP・GFRP)
炭素繊維強化プラスチック(CFRP)やガラス繊維強化プラスチック(GFRP)のマトリックス樹脂としても、エポキシ樹脂は不可欠です。
航空機構造材、風力発電ブレード、スポーツ用品(自転車フレーム、釣竿)、自動車軽量化部材などの用途で、高い接着性と耐熱性、硬化後の寸法安定性が評価されています。
④ 電気絶縁材料
エポキシ樹脂は極性が高く、架橋後は優れた電気絶縁性を示すため、以下のような電気・電力分野でも広く利用されます。
変圧器・開閉器の絶縁部材
プリント基板(エポキシ系ガラスクロス積層板:FR-4)
モーター・発電機の絶縁含浸材
特に FR-4(エポキシガラス基板)は電子機器の標準材料であり、エポキシ樹脂の代表的な用途の一つです。
⑤ UV硬化型エポキシ樹脂(オキセタン・カチオン重合)
塗料用途ではアクリル系UV硬化樹脂が主流ですが、エポキシ樹脂も光酸発生剤(Photo Acid Generator:PAG)を用いたカチオン重合によりUV硬化が可能です。
図4に酸によるエポキシのカチオン開環重合反応のスキームを示します。PAGが光照射により酸を生成し、その酸がエポキシ環をプロトン化することで開環反応が開始します。生成したカチオン性の反応点が次のエポキシ環を攻撃し、連続的に開環が進むことでポリマー鎖が成長します。
図4 酸によるエポキシのカチオン開環重合
5.1 カチオン重合型エポキシの特徴
カチオン開環重合は酸素阻害を受けにくく、寸法安定性の高い硬化膜が得られます。また、高硬度・高耐熱性で金属・ガラスへの密着性が高いので、電子材料や光学用途、インキジェットインキ、フォトレジストで広く利用されています。
5.2 オキセタン樹脂
オキセタンは、エポキシと同様に環状エーテルですが、 エポキシ(オキシラン)は三員環、オキセタンは四員環です。図5にオキセタン樹脂の一例を示します。
図5 オキセタン樹脂の例
開環反応そのものの反応性はエポキシより低いですが、カチオンUV硬化系では、開始効率や連鎖成長速度が高いことから、多くの場合、実用的な硬化速度はエポキシより速くなります。このため、オキセタンはエポキシ樹脂のUVカチオン硬化性を向上させる共重合成分として広く利用されています。
特に、電子材料や光学用途では、 「エポキシ+オキセタン+光酸触媒」という組み合わせが高性能材料として広く採用されています。
⑥ その他の用途
床材・土木補修材(高強度・耐薬品性)
鋳型・金型用樹脂(寸法安定性)
封止・ポッティング材(耐熱・絶縁性)
3Dプリンティング材料(カチオン系)
エポキシ樹脂は、塗料用途を超えて、工業材料全般に広く浸透しています。
ビスフェノールA(BPA)に関する規制動向
ビスフェノールA(BPA)は、生殖毒性および内分泌かく乱作用が指摘されており、国内外で規制が強化されつつあります。
日本では、液状BPA型エポキシ樹脂が化審法の「優先評価化学物質」に指定され、届出・管理が求められています。
欧州では、REACH規制におけるSVHC(高懸念物質)候補物質で、食品接触材料での使用制限があり、BPAフリー樹脂への置換が進行中です。塗料分野でも、BPAフリーエポキシ(脂環式・脂肪族・ノボラック代替)の開発が進んでおり、今後は BPA依存度の低い樹脂設計が求められています。
引用文献
1) 中澤眞人,「金属表面と有機物との界面密着メカニズム」、J. Jpn. Soc. Colour Mater.(色材)、68,424 (1995)