ポリイソシアネートとポリウレタン樹脂は、塗料分野で極めて重要な関係を持つ材料です。ポリイソシアネートは主に硬化剤として、ポリウレタン樹脂はバインダー樹脂として用いられ、両者は高性能な塗膜形成に大きく関わっています。
本稿では、まずポリイソシアネートの基本構造、種類、特徴、塗料用途での使い分けを整理し、その後にポリウレタン樹脂の基本的な考え方、特徴、利用形態について解説します。
ポリイソシアネート
ポリイソシアネートとは
イソシアネート基(–N=C=O)は窒素・炭素・酸素が直線状に並んだ強い電子求引性を持つ官能基です。反応性が極めて高く、水酸基・アミノ基・水などと室温で簡単に反応します。ポリイソシアネートとは、このイソシアネート基を2個以上有する化合物を指し、分子量は数百〜千程度の低分子量体が中心となります。
単量体
代表的なポリイソシアネート単量体(TDI、MDI、HDI、IPDIなど)を図1に示します。これらの単量体は分子量が低くて蒸気圧が高いので、毒性・吸入リスクが大きいため、塗料製造や塗装現場で単量体を直接扱うことはほぼありません。
図1 代表的な単量体イソシアネート
変性ポリイソシアネート
塗料製造や塗装現場では、高分子量化して蒸気圧を低下させ、毒性を軽減して取り扱いやすくした変性ポリイソシアネート(表1)が使用されます。これらは毒性の低減とともに、多官能性であることから架橋性能も向上しています。
変性ポリイソシアネートは、単量体イソシアネートを反応させて製造され、その反応形式には、ポリオールとの反応によるアダクト型のほか、イソシアネート基の自己反応による二量化体(ウレトジオン体)、三量化体(イソシアヌレート体)、およびビュレット化による縮合体(ビュレット体)が含まれます。ウレトジオン体は図2に示すような4員環を形成する二量体であり、製品分類上はアダクト型ポリイソシアネートとして扱われることが多いようです。また、アダクト体にはポリオールとの反応による粘度調整型アダクトなど、広義には複数のタイプが含まれます。
表1 変性ポリイソシアネート
図2 ウレトジオン体(単量体はTDI)
ブロックイソシアネート
イソシアネート基は反応性が高いので、そのままでは2液型塗料にしか使用できません。また水とも容易に反応するので水性塗料にも使用は困難です。このような場合、イソシアネート基をあらかじめブロック剤と反応させたブロックイソシアネートが使用されます。
ブロック剤は図3に示すように、加熱で解離・揮散してイソシアネート基が再生するので、ポリオール樹脂との1液加熱硬化型塗料や、水性塗料にも使用可能です。
ブロック剤にはアルコール類、フェノール類、オキシム類、ε-カプロラクタム、活性メチレン類などが使用されます(表2参照)。
解離温度は、イソシアネート化合物、ブロック剤、触媒の種類とその量などに影響を受けるので、表2に示した解離温度はおおよその目安です。芳香族イソシアネートは脂肪族より解離温度が低い傾向にあります。
図3 ブロックイソシアネート(ブロック剤はフェノール)
表2 各種ブロック剤
なお、ブロック剤は焼き付け炉や排気ダクトの壁面にヤニとなって付着し、汚れだけではなく、酸化反応による自己発熱が蓄積し、断熱状態で温度が上昇したところに着火源が加わることで発火事故が起こることもあります。一般的に、解離温度が低いオキシム系や活性メチレン系ではヤニが生じにくく、高温解離型のアルコール系では付着しやすい傾向にあります。
ポリイソシアネートの特徴
ポリオール樹脂(水酸基を持つアクリル樹脂やポリエステル樹脂など)と反応してウレタン結合(–NH–CO–O–)を形成した塗膜は、一般に以下のような特性を示します。
強靭で弾力性が高い
耐摩耗性・耐薬品性・耐溶剤性に優れる
• 基材密着性が良い
芳香族系(TDI、MDI)は反応性が高く速乾性に優れますが、紫外線に弱く、黄変しやすいという欠点があります。
脂肪族・脂環族系(HDI、IPDI)は反応性が低いですが、耐候性・耐黄変性に優れるため、自動車上塗りなど高耐候用途で広く使用されます。
ポリイソシアネートの塗料での利用形態
2液常温硬化型ウレタン塗料
アクリルやポリエステルのポリオール樹脂を用いた主剤塗料と組み合わせて、硬化剤として使用されます。
1液焼付け型塗料(ブロックイソシアネート)
加熱によりブロック剤が解離し、再生したイソシアネート基がポリオール樹脂と反応します。粉体塗料やカチオン電着塗料(水性塗料)で広く使用されます。
用途別の使い分け
芳香族系:下塗り、木工、床用など耐候性不要の用途
脂肪族系:自動車上塗り、工業用上塗り、自動車補修用、建築外装、重防食用上塗り
ポリウレタン樹脂
ポリウレタン樹脂とは
ポリウレタン樹脂は、主鎖にウレタン結合(–NH–CO–O–)を有する高分子化合物の総称です。1.3節で述べた2液型ウレタン塗料やブロックイソシアネートを用いる1液焼付塗料の硬化物も、最終的にはウレタン結合を含むため広義のポリウレタン樹脂と言えます。
ここで取り上げるポリウレタン樹脂とは、低分子ポリオール、ポリアルキレングリコール、ポリエステルジオール、ポリカーボネートジオール等の長鎖ジオール成分、および図1に示したポリイソシアネート単量体の反応で得られる主鎖にウレタン結合を持つ高分子樹脂です。低分子ポリオールとしては、グリセリン、トリメチロールプロパン(TMP)、トリメチロールエタン(TME)などの三官能ポリオール、1,4-ブタンジオール(BDO)、ネオペンチルグリコール(NPG)、ジエチレングリコール(DEG)などの二官能ポリオール、さらにペンタエリスリトール(PE)のような多官能ポリオールが代表的です。
ポリウレタン樹脂の製造には、毒性のあるポリイソシアネート単量体(TDI、MDI、HDI、IPDIなど)を使用するため、反応は厳重に管理された工場で行われます。
塗料用ポリウレタン樹脂には、以下のようなタイプがあります。
湿気硬化型ポリウレタン(NCO末端プレポリマー)
ラッカー型(溶剤可溶ポリウレタン)
水性エマルション型(ポリウレタンディスパージョン:PUD)
油変性ポリウレタン(乾性油変性型)
湿気硬化型ポリウレタンは、末端に残存するイソシアネート基が大気中の水分と反応し架橋硬化します。
不飽和結合を含む脂肪酸で変性した不飽和脂肪酸変性ポリウレタンは、アルキド樹脂の長油・中油系と同様に酸化重合により常温で硬化します。
水性エマルション型は、外部乳化剤を用いる強制乳化型と、カルボキシル基やスルホン酸基を導入して自己乳化する自己乳化型があります。
ポリウレタン樹脂の特徴
ポリウレタン樹脂は、弾力性・強靭性・耐摩耗性・密着性・耐薬品性・耐溶剤性に優れた塗膜を形成します。これは、前節の変性ポリイソシアネート類を硬化剤とする2液型ウレタン塗料やブロックイソシアネートを硬化剤とする1液焼付ウレタン塗料にも共通する特徴です。
これらの特徴は、以下の構造的要因に基づいて発現します。
ウレタン結合の強固さ
ウレタン結合(–NH–CO–O–)は極性が高く、ウレタン結合同士で水素結合を形成しやすいため、塗膜の強度・耐薬品性に寄与します。
ハードセグメントとソフトセグメントの相分離構造
図4に示すように、
ウレタン結合を含む硬い部分(ハードセグメント)
ポリオール由来の柔軟な鎖(ソフトセグメント)
が塗膜内で微細に相分離し、疑似網目構造(海島構造)を形成します。
図4 ウレタン塗膜の構造
ハードセグメントは水素結合により強固な会合体を形成し、ソフトセグメントの伸縮があっても網目構造が保持されるため、塑性変形しにくく、強靭で弾力性のある塗膜となります。
表31)に示すように、ポリウレタン樹脂の性能は、使用するポリオールやポリイソシアネートの種類に大きく依存します。特に、TDIやMDIなど芳香族イソシアネートを用いた場合は、紫外線により黄変・白亜化が生じやすいため、屋外用途では脂肪族系(HDI、IPDI)を選択します。
ハードセグメントのウレタン結合部は、被塗物表面との水素結合により優れた密着性を発現します。
表3 原料組成別ポリウレタンの性質1)
ポリウレタン樹脂の塗料での利用形態
湿気硬化型ポリウレタン
末端にイソシアネート基を残したプレポリマーであり、大気中の水分と反応して架橋硬化する1液型システムです。湿気に非常に敏感であるため、製造・保管・使用の各段階で水分管理が重要となり、モレキュラーシーブなどによる乾燥が行われます。
また、顔料や充填剤に含まれる水分・不純物によりゲル化しやすいため、従来はクリヤー用途が中心でしたが、近年は、顔料存在下でも安定に貯蔵・硬化できる設計の湿気硬化型ポリウレタンが開発され、床用塗料や着色系防水材などへの応用が拡大しています。
水性エマルション型(PUD)
水性ポリウレタンディスパージョンは、床用塗料、自動車用チッピングプライマー、木工用クリヤーなどで広く使用されます。
自己乳化型PUDは耐水性・耐薬品性に優れ、近年の水性化要求に対応する主要技術となっています。
不飽和脂肪酸変性ポリウレタン
不飽和結合を利用し、長・中油アルキド樹脂と同様にドライヤーを用いた酸化重合で常温硬化します。木工用や建築用の常乾塗料として使用されます。
ラッカー型
かつては溶剤可溶型の熱可塑性ポリウレタン樹脂を「ラッカー型」と呼びましたが、現在はVOC規制や性能面から使用は限定的となっています。
引用文献
1)和田秀一,「水性コーティング材料の開発と応用」(三代澤良明 監修)、p.54、シーエムシー出版(2004)