アクリル樹脂は、塗料用樹脂の中でも特に広く用いられている代表的な高分子材料です。無色透明で光沢が良く、耐候性・耐水性・耐薬品性に優れることから、建築、自動車、工業用途など幅広い分野で使用されています。
一方で、ひとくちにアクリル樹脂といっても、用いるモノマーの種類や組み合わせによって物性は大きく変化します。本稿では、アクリル樹脂の基本構造、代表的なモノマー、合成に用いられるラジカル重合反応、さらに塗料用途で重要となる特徴と利用形態について解説します。
アクリル樹脂とは
アクリル樹脂は、二重結合を持つモノマーをラジカル重合反応で連結して得られる高分子です。二重結合を持つモノマーにはアクリルモノマー(アクリレート、メタクリレート)とビニルモノマーがあり、その違いは置換基(ペンダント基ともいう)の位置にあります。
アクリルモノマー(アクリレート、メタクリレート)
アクリレート(アクリル酸誘導体)は、図1に示すようにアクリル酸カルボキシル基がエステル化され、種々の官能基が側鎖(ペンダント基)として結合した構造を持つ化合物です。これに対し、ビニルモノマーは CH₂=CH-X のように表すことができ、官能基 X が二重結合に直接結合した構造を持ちます。
図1 (メタ)アクリルモノマーの例
図1の①が基本となるアクリル酸であり、アクリル酸にエステル結合を介して、②はヒドロキシエチル基が、③はシクロヘキシル基がペンダントしています。
アクリル酸のカルボキシル基が結合した炭素原子の水素原子がメチル基に置換した化合物がメタクリル酸(図1④)です。そのエステル化合物(メタクリレート)も含めて、同様にアクリル樹脂の合成に用いられます。
このことから、(メタ)アクリル樹脂や(メタ)アクリルモノマーのように両者を含めた表現をすることがあります。
メタクリレートにもアクリル酸と同様に種々の官能基がペンダントしたモノマーが知られており、例えば図1の⑤はメチル基が、⑥は長鎖のラウリル基が、⑦はグリシジル基(エポキシ基)がペンダントしています。図1に示した(メタ)アクリルモノマーはほんの一例で、ペンダント官能基が異なる多くの種類のモノマーが上市されています。
さらに、図2のような強酸性や塩基性の官能基をペンダントしたモノマーも存在し、少量を他のモノマーと共重合させることにより、顔料分散性や密着性の向上が期待できます。
図2 強酸性・塩基性モノマーの例
アクリル樹脂の合成
アクリル樹脂は、(メタ)アクリルモノマーの重合反応により合成され、一般的にはラジカル重合反応が用いられます。ラジカル重合反応は、図3に示す開始、連鎖成長、連鎖停止の素反応から成り立っています。
図3 ラジカル重合による高分子鎖の形成過程
① 開始反応
まず、ラジカル重合開始剤と呼ばれる物質が、加熱などによって開裂し、ラジカルを発生します。
図4 ラジカル重合開始剤による(メタ)アクリルモノマーのラジカル重合反応
ラジカルとは不対電子を1つ持つ原子や分子のことで、非常に反応性が高く、他の分子から電子を奪ったり結合したりしやすい性質を持っています。
ラジカル重合開始剤としては、アゾ系、過酸化物系、レドックス系のものがあり、それぞれ、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)、過硫酸アンモニウム(APS)+亜硫酸水素ナトリウム(NaHSO₃)が代表例です。レドックス系は水系(乳化重合)で特に重要です。
発生したラジカルは(メタ)アクリルモノマーを攻撃し、二重結合の一部に関与している電子と新たに電子対を形成し、共有結合が生じます。
② 連鎖成長反応
生成したラジカルを持つ炭素原子は、別のモノマーを攻撃します。攻撃されたモノマーも同様に反応することで、共有結合により高分子鎖が次々に成長していきます。
③ 成長停止反応
ラジカル同士の再結合や不均化によって、成長反応は停止します。
また、チオール類(特にメルカプタン)のような連鎖移動剤の存在により、成長中の高分子鎖から連鎖移動剤にラジカルが移動します。高分子鎖は成長を停止し、連鎖移動剤から新たに成長が開始します。
50〜200 atm 程度の加圧下ではモノマー自身への連鎖移動も生じるので、分子量分布が広くなります。これは、低粘度でありながら高分子量成分を含み、高固形分塗料に適した(メタ)アクリル樹脂であり、このような加圧下での重合法を高圧重合法と呼びます。
共重合
多くの場合、(メタ)アクリルモノマー同士、もしくは(メタ)アクリルモノマーとスチレンのようなビニルモノマーは、混合してラジカル重合させることで、一つの高分子を合成できます。これをラジカル共重合と呼び、複数種類のモノマーからなる高分子を共重合体(コポリマー)と呼びます。
塗料用の「アクリル」樹脂は、種々のモノマーを共重合させて合成されるため、性質も多様です。また、塗料分野でアクリル樹脂と言う場合、ビニルモノマーを共重合させた樹脂も含むことが多いのですが、厳密に区分する際には、スチレンを共重合させた場合はスチレン-アクリル樹脂、(メタ)アクリルモノマーのみからなるものはピュアアクリル樹脂などと呼ばれます。
水性化
水溶性のラジカル重合開始剤を用いた乳化重合(エマルション重合)法や、油溶性のラジカル重合開始剤を用いた懸濁重合法を用いると、水に樹脂粒子が分散した形態の樹脂(分散型樹脂)も製造可能です。分散型樹脂については別記事で解説します。
新しい重合法
近年では、リビングラジカル重合法やリビングイオン重合法などの新しい重合技術も開発されており、シャープな分子量分布や、分子ごとに均一なモノマー組成、結合順序の制御などが可能になっています。塗料用樹脂としてはコスト面から採用が難しいものの、顔料分散剤など一部の添加剤の合成では利用されています。
アクリル樹脂の特徴
アクリル樹脂は、一般に無色透明で光沢が良く、耐候性・耐水性・耐薬品性に優れています。
ポリエステル樹脂やアルキド樹脂のように主鎖にエステル結合を含まないため、アクリル樹脂では加水分解による主鎖切断が起こりにくく、これが耐候性・耐水性の高さにつながります。ただし、スチレンを多く含むものはフェニル基が紫外線を吸収するため、耐光性が不良で黄変やチョーキング、クラックを生じることがあります。
また、共重合させるモノマーの組み合わせにより、非常にバリエーションに富んだ品種を作り分けることが可能であり、ペンダント基によって物性を広範囲に調整できます。例えば、以下のような性質は側鎖の種類によって大きく変化します。
・Tg(ガラス転移温度)
・SP(溶解性パラメータ)値
・耐候性
・架橋反応性
例えば、ペンダントする炭化水素鎖が長いほど Tg は低く、SP 値も小さくなり、低極性溶剤に溶けやすくなります。また、ペンダント基が同じであれば、メタクリルモノマーはアクリルモノマーより高い Tg を示します。これは、主鎖近傍のメチル基による立体障害のため、結合軸周りの回転が阻害されるためです。
アクリル樹脂の塗料での利用形態
アクリル樹脂は、共重合するモノマーの種類、すなわちペンダント官能基の違いによって、多様な用途に対応できます。
ペンダント官能基別の用途
① 水酸基
水酸基を持つアクリル樹脂はポリオール樹脂として用いられ、ポリイソシアネートとポリウレタン樹脂で解説するポリイソシアネートと組み合わせた2液アクリルウレタン塗料、メラミン樹脂やブロックイソシアネートと組み合わせた1液焼付硬化型塗料などに使用されます。
② カルボキシル基
カルボキシル基を持つ系では、酸価が40~150になるように(メタ)アクリル酸などの酸モノマーを共重合し、カルボキシル基をアミンやアンモニアで中和することで、高分子電解質となって水性化(水溶性、水分散性)します。
また、有機溶剤系ではカルボキシル基が酸性のアンカー(顔料吸着基)として機能し、多くの無機顔料や酸性処理された有機顔料に対して分散安定化効果を発現します。
③ エポキシ基
エポキシ基を持つアクリル樹脂は、エポキシ樹脂と同様にポリアミンやカルボン酸との架橋反応により被膜を形成します。
熱可塑性アクリル
分子量が大きく、Tg が高い樹脂は、ラッカータイプの熱可塑性塗料として使用されます。
水性アクリルエマルション
乳化重合で得られるアクリルエマルションやスチレン-アクリルエマルションは、水性建築塗料の主力樹脂であり、内外装用塗料として広く用いられます。
文献
1)若原章博、J. Jpn. Soc. Colour Mater.(色材)、92、p.147(2019)
2)C. Auschra, et al., Prog. Org. Coat., 45, p.83(2002)