アルキド樹脂は、塗料用樹脂の中でも長い使用実績を持つ代表的な樹脂です。乾性油の酸化重合を利用して常温で硬化できることから、建築、金属、木工など幅広い分野で古くから用いられてきました。
本稿では、アルキド樹脂の基本的な考え方、原料となる油脂・脂肪酸、乾燥機構、特徴、さらに塗料用途での利用形態について解説します。
アルキド樹脂とは
脂肪酸で変性したポリエステル樹脂をアルキド樹脂と呼びます。その起源は1920年代にさかのぼります。油脂由来の脂肪酸を取り込むことで、乾性油の酸化重合を利用した常温乾燥型塗料が実現しました。常温で硬化することに加え、光沢や肉持ち感に優れ、耐久性や顔料分散性も良好であることから、1950〜1970年代にかけて建築・金属・木工・自動車などの幅広い分野で主役となりました。なお、“alkyd” は alcohol と acid を組み合わせた造語です。
また、アルキド樹脂から油脂成分を取り除き、耐水性・耐薬品性を向上させたものがオイルフリーポリエステル樹脂です。現代のポリエステル樹脂の多くは、この流れを受け継いで発展しています。アルキド樹脂と共通するポリエステル部の構造やモノマーについては、別記事をご参照ください。
アルキド樹脂に用いられる油脂・脂肪酸
アルキド樹脂の合成に用いられる脂肪酸はヒマシ油やヤシ油など、主に植物性油脂が原料ですが、魚油なども使用されることがあります。油脂は図1に示すように、3価アルコールであるグリセリンと脂肪酸がエステル結合したもので、脂肪酸は油脂を加水分解することによって得られます。
図1 油脂の構成成分
アルキド樹脂の製造方法としては、油脂を加水分解して得た脂肪酸を原料として、他の原料(ポリエステル樹脂の原料)も同時に仕込んで樹脂化する脂肪酸変性法と、油脂と多価アルコールとであらかじめ、エステル交換反応を行なってから多塩基酸を仕込んで2段で樹脂化する油脂変性法とがあります。
脂肪酸の変性量を油長といい、多い方から長油アルキド樹脂(55-70%)、中油アルキド樹脂(40-55%)、短油アルキド樹脂(25-40%)と呼びます。英語ではそれぞれLong Oil Alkyd、Medium Oil Alkyd、Short Oil Alkyd、油長をOil Lengthと呼んでおり、これをそのまま直訳した形になっています。塗料用樹脂としては、アルキド樹脂の方が歴史は古く一般的なので、塗料では油を含まない方を、特にオイルフリーポリエステルと呼んで区別します。
表1にアルキド樹脂の変性に使用される代表的な油脂と、含まれる脂肪酸の種類を示します。飽和脂肪酸を多く含む油脂と、不飽和脂肪酸(二重結合を炭素鎖中に含む脂肪酸)を多く含む油脂があります。多くの場合、前者は短油アルキド樹脂に、後者は長油アルキド樹脂に主に用いられます。
表1 各種油脂類の脂肪酸組成比
二重結合の量は、油脂100 gに付加することのできるヨウ素(I2)のグラム数で示され、この値はヨウ素価と呼ばれます。ヨウ素価が130以上の油脂を乾性油、100から130のものを半乾性油、100以下のものを不乾性油と呼びます。表1でヨウ素価が130以上の大豆油、アマニ油、桐油にはリノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸などの二重結合を複数持つ脂肪酸が多く含まれています。これらの脂肪酸は、空気中の酸素により酸化重合して、硬化被膜を形成する(乾く)ので「乾性油」と呼ばれます。特にエレオステアリン酸は二重結合が共役しているので、この傾向が顕著です。
従って、このような油脂により変性され、変性量の多い長油アルキド樹脂も「乾性」を持ち、常温で硬化膜を形成します。実際には、ドライヤーと呼ばれる反応を促進する添加剤を配合します。
一方、短油アルキド樹脂にはヤシ油などの不乾性油が用いられるので、酸化重合による常乾性はありません。水酸基の反応性を生かして、主にメラミン樹脂やポリイソシアネート(ブロック体を含む)と組み合わせた、1液加熱硬化型もしくは2液型塗料のポリオール樹脂として用いられます。少量の不乾性油で変性することにより、樹脂に柔軟性を付与し、塗膜の光沢や肉持ち感が向上します。
中油アルキド樹脂は両者の中間的な位置づけです。
図2に長油アルキド樹脂と短油アルキド樹脂の構造の違い(イメージ)を示します。
図2 長油アルキド樹脂と短油アルキド樹脂の構造の違い
乾性油の酸化重合メカニズム
乾性油および乾性油で変性された長・中油アルキド樹脂は、図3に示すように、乾性油中の脂肪酸の不飽和結合(–CH=CH–)が空気中の酸素と反応し、ラジカル酸化重合によって架橋構造を形成します。
まず、酸素がアリル位(二重結合に隣接する炭素原子の位置を指します。例えばCH2=CH–CH3では、末端のCH3炭素がアリル位です)の水素を引き抜いてペルオキシラジカルを生成し、これが連鎖的に反応して過酸化物を形成します。過酸化物は分解して新たなラジカルを生じ、脂肪酸鎖同士が結合して三次元網目構造を形成します。
図3 乾性油の酸化重合機構
アルキド樹脂の特徴
アルキド樹脂は安価で光沢が良く、また顔料分散性も良好です。
長油アルキド樹脂は常温乾燥型として優秀な反面、乾性油由来の黄変が起こりやすいので淡色塗料では注意が必要です。また、乾燥速度は温度・湿度・酸素供給に大きく依存します。
塗料での利用形態
短油アルキド
水酸基やカルボキシル基を利用して、ポリイソシアネート(2液ウレタン)、メラミン樹脂(1液焼付)、ブロックイソシアネート(1液焼付、粉体塗料)などと反応し、強靭な架橋塗膜を形成します。農機具、鋼製家具、電気機器など工業製品の塗装に用いられます。
長油アルキド
コバルト・マンガンなどのドライヤー(ナフテン酸塩などの金属石鹸)を併用して、刷毛塗り・ローラー塗りなどの現場施工用塗料に用いられます。具体的には、鉄骨・鋼構造物の上塗り・下塗りなどの防錆塗料、橋梁・タンク・フェンスなどの鉄部の保護・装飾用塗料、船舶や陸上構造物の上塗り塗料(マリン用上塗り)などに用いられます。
文献
1)日本ペイント(株):「塗料の性格と機能」,日本塗料新聞社,p.41, p.51 (1998)