ポリエステル樹脂は、塗料用樹脂として非常に幅広く用いられている代表的な樹脂です。原料となる酸成分やアルコール成分の組み合わせによって、硬さ、柔軟性、耐候性、耐水性、反応性などを広い範囲で設計できます。
本稿では、ポリエステル樹脂の基本構造、使用される代表的なモノマー、特徴、さらに塗料用途での利用形態について解説します。
ポリエステル樹脂とは
ポリエステル樹脂は、モノマーがエステル結合(-CO-O-)で多数連なった合成樹脂の総称です。エステル結合は図1に示すように、カルボキシル基(-COOH)1個と水酸基(-OH)1個から、水が1個取れて形成される化学結合です。水が取れる分だけ R1 と R2 の距離が短くなるため、この重合反応は縮重合反応、あるいは縮合反応と呼ばれます。
高分子として成長するためには、モノマー分子内にカルボキシル基もしくは水酸基が2個以上存在する必要があります。また、水が取れて形成される結合であるため、逆に水が存在すると切断される可能性があります。これを加水分解と呼び、酸性あるいは塩基性の雰囲気で水が存在すると著しく進行します。
図1 カルボキシル基と水酸基からのエステル結合の生成
ポリエステル樹脂を油脂や脂肪酸で変性したものをアルキド樹脂と呼びます。アルキド樹脂については、別記事で説明します。塗料用樹脂としては、アルキド樹脂の方が歴史的に古くから使用されていることから、多くの場合、油脂や脂肪酸で変性していないものを、わざわざオイルフリーポリエステル樹脂と呼んで区別します。
ポリエステル樹脂に使用されるモノマー
ポリエステル樹脂は、基本的に二塩基酸と呼ばれるカルボキシル基を2個持つ化合物と、多価アルコールと呼ばれる水酸基を2個以上持つ化合物を組み合わせて合成されます。さらに、ラクトン(分子内にエステル構造を持つ環状化合物)や、ヒドロキシ酸(分子内に水酸基とカルボキシル基の両方を持つ化合物)類も使用されることがあります。
二塩基酸
フタル酸、アジピン酸、セバシン酸などが主要な二塩基酸モノマーです。その構造式を図2に示します。
フタル酸には3種類の異性体が存在します。2個のカルボキシル基の相対的な位置関係で、オルト(O-)体、メタ(m-)体、パラ(p-)体と呼ばれます。また、一般的にはオルト体をフタル酸、メタ体をイソフタル酸、パラ体をテレフタル酸と呼びます。さらに、オルト体の隣接する2個のカルボキシル基が分子内脱水した無水フタル酸もよく使用されます。テレフタル酸は反応性が悪く、塗料用樹脂としての使用は限定的です。
フタル酸をモノマーとして使用すると、ベンゼン環が主鎖中に存在することになり、主鎖の結合軸周りの回転が抑制されるので、得られる塗膜は硬くなります。
一方、アジピン酸やセバシン酸は直鎖の飽和炭化水素の両端にカルボキシル基が結合したもので、柔らかい塗膜が得られます。
図2 ポリエステル樹脂の酸モノマー(二塩基酸)
二塩基酸モノマーとして、無水マレイン酸やフマル酸(図3参照)のような不飽和結合(二重結合)を持つものを用いると、主鎖に不飽和結合を持つ樹脂が得られます。このような樹脂は不飽和ポリエステル樹脂と呼ばれ、スチレンなど二重結合を持つビニルモノマーやアクリレートモノマーに溶解して、不飽和ポリエステル樹脂塗料として用いられます。二重結合を持つモノマーは低分子量なので、不飽和ポリエステル樹脂の溶剤として働くと同時に、硬化時には樹脂の二重結合と共重合して塗膜を構成します。このような機能を持つものを反応性希釈剤と呼びます。不飽和ポリエステル樹脂塗料は、木工用パテやサンディングシーラー、コンクリート床材、金属用プライマー、自動車補修用パテなど、速硬化性と高硬度が求められる分野で使用されています。
図3 不飽和結合を持つ二塩基酸モノマー
多価アルコール
直鎖の2価アルコール(直鎖ジオール)、分岐ジオール、3価・4価アルコールが使用されます(図4)。
図4 ポリエステル樹脂の水酸基モノマー(多価アルコール)
直鎖ジオールは炭素数が2個以上の飽和炭化水素の両端に水酸基が結合したもので、炭化水素鎖が長くなるほど、生成するポリエステル樹脂は柔らかくなります。
分岐ジオールは図4に示すように、分岐した炭化水素の両端に水酸基が結合したものです。直鎖型ジオールと異なり、エステル結合の近くに疎水性のメチル基が存在することになるので、加水分解しにくく耐水性の良い樹脂が得られます。
3価・4価アルコールは、二塩基酸とジオールだけでは得られない分岐構造を導入でき、架橋反応性や硬度、耐熱性などを調整するのに用いられます。
実際の塗料用ポリエステル樹脂の設計では、上述のモノマーの種類や比率を調整することにより、硬さ、柔軟性、耐候性、耐水性などを細かく設計できます。
ラクトン類
ラクトン類は分子の両端にそれぞれ水酸基とカルボキシル基を1個ずつ持つ化合物が、両者のエステル結合により環状になった化合物です。ラクトン類には、ε-カプロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-ブチロラクトンなどがありますが、塗料用ポリエステル樹脂には、主にε-カプロラクトンが用いられます。
図2-5に示すように、他の化合物の水酸基(もしくはカルボキシル基)とラクトンのカルボキシル基のエステル交換反応により開環し水酸基を生じます。この反応が連鎖してポリエステル鎖を形成します。これを開環重合と呼びます。
ポリエステル樹脂の合成途中で添加することで、樹脂の反応性を改善する目的でも広く利用されています。特に、トリメチロールプロパン(TMP)などの多価アルコールを用いた場合、主鎖近傍に未反応の水酸基が残り、イソシアネートやメラミンとの反応性が低下することがありますが、カプロラクトンを付加させると、開環したポリカプロラクトン鎖がスペーサーとして働き、水酸基を主鎖から離れた位置に配置できるため、架橋反応性が向上し、硬度・耐薬品性・耐候性などの塗膜性能が改善されます。
図5 ε‐カプロラクトンと水酸基からの開環重合反応
ヒドロキシ酸
一つの分子中に水酸基とカルボキシル基を持つ化合物の総称です。代表的なものとして、グリコール酸や乳酸などの低分子ヒドロキシ酸があり、これらは自己縮合によりポリ乳酸などのポリエステル樹脂を形成します。
塗料分野では、ヒマシ油由来の 12-ヒドロキシステアリン酸(図6)やε-カプロラクトンの開環体である 6-ヒドロキシカプロン酸は、ポリエステル樹脂の柔軟性や反応性を改善する重要な構成単位となっています。
図6 ヒドロキシ酸の例
ポリエステル樹脂の特徴
ポリエステル樹脂(オイルフリー)は、耐薬品性・耐熱性に優れる一方で、エステル結合は加水分解しやすいので、耐水性には注意が必要です。
多価アルコールとして分岐ジオールを使うと耐加水分解性が向上します。直鎖構造で高分子量(数平均分子量2000~30000)のものは硬度と柔軟性の両立が可能で、プレコートメタル用塗料などに利用されます。
塗料での利用形態
架橋型(熱硬化・常温硬化)
水酸基を利用して
• ブロックイソシアネート(粉体塗料)
カルボキシル基を利用して
・β‐ヒドロキシアルキルアミド(粉体塗料)
・カルボジイミド化合物
などと反応し、強靭な架橋塗膜を形成します。
水性化
酸価の高いポリエステル樹脂は、アンモニアやアミンで中和して、水溶性もしくは水分散体のバインダー樹脂として使用できます。