ビニル樹脂は、塗料・接着剤・フィルム・建材など幅広い分野で用いられる高分子材料です。塗料用樹脂として見ると、アクリル樹脂やポリエステル樹脂とは異なる特性を持ち、用途に応じてさまざまなビニル系樹脂が使い分けられています。
本稿では、ビニル樹脂の基本構造と代表的な種類、さらに塗料用途を中心とした特徴と利用形態について解説します。
ビニル樹脂とは
ビニル樹脂は、アクリル樹脂と同様に二重結合を持つモノマーがラジカル重合反応で連結して得られる高分子です。アクリル樹脂との違いは、構成するモノマーの構造、すなわち置換基の位置にあります。ラジカル重合反応の基本的な考え方については、アクリル樹脂の記事をご参照ください。
アクリルモノマーはアクリル酸(またはメタクリル酸)のカルボキシル基がエステル化され、種々の官能基が側鎖(ペンダント基)として結合した構造(CH2=CH-CO-O-X型)を持つ化合物です。これに対し、ビニルモノマーは二重結合を持つ炭素原子に、官能基Xが直接結合した構造(CH2=CH-X型)を持っています。
代表的なビニルモノマーを図1に示します。
図1 ビニルモノマーの例
これらのモノマーは、単独で重合させるだけでなく、他のビニルモノマーや(メタ)アクリルモノマーなどと混ぜ合わせて重合させ、一つの高分子を合成することも可能です。このように複数種類のモノマーからなる高分子を共重合体といいます。
酢酸ビニル(VAc)はビニルアルコールと酢酸のエステル化合物の形状をしています。ただし、ビニルアルコールとケト・エノール互変異性体のアセトアルデヒド(CH3CHO)の方が安定なので、ビニルアルコールモノマーは単独で安定に存在することはできません。
ビニル樹脂の特徴と主な利用形態
① 塩化ビニル樹脂(PVC)
耐水性や耐薬品性、金属への密着性に優れます。また難燃性です。ただし、硬質なので塗料用樹脂などとして用いる場合には可塑剤が必要となり、塗膜からのブリードにも注意が必要です。
溶剤への溶解性、臭気の改善のため酢酸ビニルを共重合(~20%)させた樹脂も用いられます。
[用途]
・ラッカーエナメル塗料(コンクリート・モルタル面、スレート板、鉄部用)
・プラスチゾル(可塑剤に樹脂粒子を分散させた塗料)
・建材・電線・包装・住宅・園芸・内装・日用品・医療など、ほぼすべての生活分野で利用される汎用プラスチックであり、塗料用途はむしろごく一部に過ぎません。 特に パイプ・電線被覆・フィルム・シート・壁紙・床材・レザー・農業用フィルム などが代表的です。
② 酢酸ビニル樹脂(PVAc)
PVAcのガラス転移温度Tgは、 28~35℃ と比較的低く、常温で容易にフィルムを形成できるのが最大の利点です。また、乾燥後に透明で光沢のある塗膜を形成します。安価ですが耐水性には劣ります(酢酸エステルの加水分解)。PVAcは水中で安定したエマルションを作りやすいため、塗料用途では、主にエマルション樹脂として水性塗料に使用されます。塗料用途でも重要ですが、実は塗料以外の用途の方が圧倒的に広く、産業的にも主力用途は非塗料分野にあり、最大の用途は接着剤です。
[用途]
・屋内(内壁)用塗料
・接着剤(最大用途)・・木工用、紙・段ボール用、建材(壁紙・床材)用
・食品包装用フィルム(PVAc共重合体)
・紙コーティング用フィルム形成材(透明性と接着性)
・建築・土木分野(モルタル・セメント改質=可とう性付与)
③ エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂(EVA)
EVAは、エチレンと酢酸ビニルの共重合体であり、酢酸ビニル含量に応じて柔軟性・接着性・透明性が変化します。
塗料分野では、EVAは道路標示塗料、接着性向上剤、プライマーなどに用いられます。特にホットメルト型道路標示材では、EVAの柔軟性と耐衝撃性が有効です。また、エマルション化したEVAは、水性エマルション塗料、木工用接着剤や建材用バインダーとしても利用されます。
耐候性・耐水性はアクリル樹脂に比べて劣りますが、道路標示材では樹脂は白顔料(TiO₂)と充填材に埋もれており、紫外線が樹脂にほとんど届かないので、あまり問題にはなりません。
[用途]
・道路標示塗料
・主に内装用の安価な水性塗料
・主用途・・フィルム、ホットメルト接着剤、フォーム材
④ ポリビニルアルコール(PVA)
先述のように、ビニルアルコールは安定ではないので、ビニルアルコールモノマーを重合させてPVAを合成することはできません。実際には、エチレンと酢酸、酸素から酢酸ビニルを直接合成し(エチレン法)、酢酸ビニルを重合させて、一度ポリ酢酸ビニルを合成してから、エステル結合を加水分解(けん化)することにより調製されます(図2参照)。
図2 ポリビニルアルコールの調製
酢酸エステルのけん化度合いは一般的に70~100mol%で、表1に示すように、けん化度が水溶性・耐水性・ガスバリア性に大きく影響します。
主鎖はビニルポリマーでありながら、側鎖に多数の水酸基を有するため、水溶性・水素結合性・結晶性といった性質を併せ持つ点が特徴です。
PVAはフィルム形成性が高く、乾燥後には強靭で透明な皮膜が得られます。耐油性や耐溶剤性は限定的ですが、耐引裂き性・耐摩耗性・ガスバリア性に優れるため、包装フィルム、接着剤、繊維加工剤、紙加工剤など幅広い用途があります。塗料分野では、直接の塗膜形成材としてよりも、水系塗料の保護コロイド、分散安定剤、増粘剤としての利用が中心です。
特にVAc系エマルション重合では、PVAは不可欠な保護コロイドとして機能し、粒子径制御や安定性に寄与します。
表1 ポリビニルアルコールのけん化度
また、PVAはアセタール化により誘導体(ポリビニルブチラール樹脂など)を得ることができ、これら誘導体は塗料・接着剤分野でも重要な役割を果たします。
⑤ ポリビニルブチラール(PVB)
PVBは、PVAをブチラール化(ブチルアルデヒドとのアセタール化)して得られる樹脂で、透明性・柔軟性・接着性・耐衝撃性に優れます。
最も代表的な用途は、自動車や建築用の合わせガラス中間膜であり、ガラス破片の飛散防止や衝撃吸収に寄与します。
塗料分野では、PVBは金属プライマー、電着塗料、印刷インキ、電子材料用バインダーとして利用されます。特に金属への密着性が高く、耐油性・耐溶剤性にも優れるため、航空機用プライマーや防錆塗料の樹脂成分として古くから実績があります。また、PVBは熱可塑性でありながら透明性が高く、光学用途にも適しています。
図3にPVBの構造を示します。一般的に水酸基 12〜25 mol%、アセチル基 0〜5 mol%、ブチラール基(残り)=約70〜88 mol%の比率です。
図3 ポリビニルブチラール樹脂
PVBは、PVA由来の水酸基が一部残存しているため、極性基と疎水性ブチラール基のバランスにより、溶剤溶解性の調整や柔軟性の制御が可能です。このため、塗料設計においても樹脂特性を細かく調整できる点が利点となります。
⑥ ポリビニルピロリドン(PVP)
PVPは、N-ビニルピロリドン(図1⑤)を重合して得られる水溶性樹脂で、高い親水性・吸湿性・成膜性を持ちます。医薬・化粧品用途で広く知られていますが、工業用途でも分散剤、保護コロイド、接着剤として利用されます。
塗料分野では、PVPは顔料分散剤、インクジェットインキのバインダー、光学コーティングの添加剤として利用されます。特に親水性基材への濡れ性向上や、透明性の高い薄膜形成が求められる用途で有効です。また、PVPは水溶性であるため、環境対応型の水系処方との相性も良好です。
⑦ ポリフッ化ビニル(PVF)・ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
PVF(Poly Vinyl Fluoride)およびPVDF(Poly Vinylidene DiFluoride)は、ビニル系樹脂の中でもフッ素樹脂系に分類され、極めて高い耐候性・耐薬品性・耐汚染性を持ちます。特にPVDFは、建築外装用フッ素樹脂塗料の主要バインダーとして世界的に利用されています。
PVFはフィルム用途が中心で、建材ラミネート、航空機内装材などに使用されます。一方、PVDFは溶剤可溶性を持つグレードが存在し、フッ素樹脂塗料(フッ素系トップコート)として金属屋根、アルミ建材、化学プラント設備などに広く採用されています。
ビニル系樹脂の中でも、PVDFは特に高耐候性樹脂として、アクリル樹脂とのハイブリッド化も進んでいます。