光安定剤とは
広義には、光安定剤は塗膜などが紫外線により劣化するのを防止する機能を持つ添加剤を指し、ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)、紫外線吸収剤(UVA)、ニッケル系クエンチャー、抗酸化剤(フェノール系・リン系)などが含まれます。これら光安定剤の特徴を表1に示します。
表1 光安定剤の種類と特徴

HALSについては本記事で説明します。UVAに関しては別記事を参照してください。
ニッケル系クエンチャーは古典的な光安定剤です。樹脂や顔料の電子が紫外光を吸収した後に生じる励起三重項状態(T₁)のエネルギーを無害化(クエンチ)します。T1は寿命が長く、分子内でラジカル生成や分解反応を引き起こす危険な状態で、このT1のエネルギーを奪って熱として散逸させることで、樹脂や顔料が分解反応に進むのを防止する役割を持ちます。ただし、Niイオンにより緑色に着色することや、環境規制の問題で現代の塗料ではほぼ使われません。
抗酸化剤(AO;Anti-Oxidant)は光安定剤ではありませんが、HALS の代わりに酸化劣化を抑える補助剤として使われます。フェノール系 AOとリン系 AOが代表的です。AOは熱酸化を抑制することで、光劣化の二次反応を防止しますが、単独では耐候性向上の効果は限定的です。
ヒンダードアミン系光安定剤(HALS)
塗膜中のバインダー樹脂や顔料が紫外光により劣化する時に発生する種々のラジカルを補足し、ラジカルがさらに他の部位を攻撃して劣化が進行するのを防止します。図1に、代表的な光安定剤の化学構造式を示します。これらの例も含め、HALSは骨格中にピペリジン環を持っており、さらに環中のアミノ基(アミン)に隣接する炭素原子の水素がメチル基で置換された構造を持っています。アミノ基が嵩高い4つのメチル基で隠されているので、英語で隠されたという意味のヒンダード(Hindered)をつけて、ヒンダードアミンと呼び、この構造を持つ光安定剤をHALS(Hindered Amine Light Stabilizer)と呼びます。

図1 ヒンダードアミン型光安定剤(HALS)の例
HALSはピペリジン環の窒素原子に結合している置換基によって、さらに、>N-CH3型(ピペリジン型)、>N-OR型(アミノエーテル型)、高分子型などに細分されます。高分子型は分子量を大きくした HALSで、>N-R型と>N-OR型の両方が存在します。また、1 分子に複数の HALS 構造を持つ多官能型も存在します。
高分子型の分子量は概ね2,000~6,000程度が主流で、ピペリジン環の窒素原子から直接高分子鎖が伸びたタイプ(グラフト型)と、窒素原子の近傍に(カルボニル側)高分子鎖が結合しているタイプ(ペンダント型)があります。ペンダント型は一つの高分子鎖に複数のHALS基がぶら下がっています。
HALSの作用機構と使い方
HALSがラジカルを補足するメカニズムは次の通りです1)。
① HALS(アミン)が酸化されてニトロキシルラジカル(N–O•)になる
② N–O• が塗膜中に生成したラジカル(R•)を捕捉する(ラジカルの消滅)
N–O• + R• → N-O-R
③ N–O–Rは不安定なので分解して、再び N–O• が再生する
N-O-R → N–O• + R-H
このように、HALS は触媒的に働き消費されません。ただし、HALS の活性中心である アミン(–NR₂) は、酸性条件では プロトン化(–NR₂ → –NR₂H⁺) されてしまい、ラジカル捕捉サイクルが機能しなくなります。このため、酸触媒硬化系(メラミン架橋系)や酸性成分(酸性顔料・リン酸系顔料分散剤)を多く含む塗料での使用には注意が必要です。
前項で、HALSには>N-CH3型(ピペリジン型)、>N-OR型(アミノエーテル型)、高分子型、多官能型があることを述べましたが、それぞれの特徴と使い方は次の通りです。
① >N-CH3型(ピペリジン型)
HALS の“原型”で、最も古くから使われているタイプです。
塩基性度が高く、酸触媒硬化系では不安定ですが、反応性が高いので強いラジカル捕捉能力を持ちます。工業塗料などのコスト重視分野で使用されます。
② >N-OR型(アミノエーテル型)
低塩基性(酸に強い)でメラミン架橋・酸性顔料系でも安定です。ブリードアウトしにくく、近年の自動車・工業塗料で主流になっています。
③ 高分子型
高分子量でブリードアウトしにくいので、長期耐候性が高く、プラスチックでも多用されます。また、揮発しにくいので焼付け塗料にも向いています。
④ 多官能型
分子に複数の HALS 構造を持つタイプで、ラジカル捕捉効率が高いうえに、分子量が大きくてブリードしにくいことから、自動車用などの高耐候性クリアーに向いています。
HALSはUVAと同様にクリアーオーバーコートに添加するほか、モノコートの着色塗料への添加も行われます。添加量の範囲は固形分比で0.3~2%程度です。チョーキング、クラック、黄変などの抑制に効果があります。
文献
山下賢治,日本ゴム協会誌,91,454(2018)