ハジキとは
塗工(塗装や印刷)の際、塗工面全面に亘って均一な被膜が得られず、ところどころ基材表面が露出したり、膜厚が薄くなったりすることがあります。このような現象は当業者間でハジキと呼ばれ、ハジキが生じることを「ハジく」と言います。
ハジキには濡れ障害型ハジキと異物ハジキがあります。
濡れ障害型ハジキ
濡れ障害型ハジキは、基材に対する塗工液の接触角に依存し、接触角が大きいほどハジキやすくなります。図1に示すように、塗装直後で膜厚が厚い時(a)には、基材表面を塗工液が均一に覆っていますが、溶剤が蒸発して塗工液の体積が減少すると(b)、塗工液は表面張力によって、その体積と被塗物との接触角θに見合った液滴に収縮して、被塗物表面が露出してしまいます。これが濡れ障害型ハジキです。

図1 濡れ障害型ハジキとそのメカニズム
塗工液(液相)と基材(固相)の表面張力をそれぞれγL、γSとすると、両者の接触角は(1)式で表すことができます1,2)。

接触角θが大きいほどcosθは小さいですから、塗工液の表面張力γL(分母)が大きいほど、また、基材の表面張力γS(分子)が小さいほど接触角は大きくなります。すなわちハジキが生じ易くなります。
水の表面張力は一般的な有機溶剤よりも大きいので、水性系の方が溶剤系の塗工液よりもハジキ易いことや、プラスティック系の基材の方が金属系の基材よりも表面張力が低いのでハジキが生じ易いことも(1)式で理解できます。
また、塗工膜厚が薄いほど、収縮によって基材表面が露出しやすいので、ハジキが生じやすいと言えます。
濡れ障害型ハジキを防止するためには、塗工液の表面張力を低くして被塗物との接触角を小さくするか、塗工液の体積が減少した時の粘度をハジくことができないほど高くなるようにします。ハジキ防止剤は塗工液の表面張力を低下させてハジキを防止する機能があります。塗工液の粘度については、溶剤の蒸発速度、バインダー樹脂の分子量やガラス転移温度、架橋反応速度、増粘剤の添加などで調整します。
一般的に、商品化されている塗工液では上記の調整が施されていますから、推奨塗工条件(基材種、塗工前処理、膜厚、塗工粘度等)を遵守している限り、濡れ障害型ハジキが生じることはありません。
異物ハジキ
異物ハジキは塗工後、塗工膜表面に図2のような塗工膜が押しのけられたような凹部が生じる現象です。これは、表面張力が塗工液よりも低い固体もしくは液体が異物として塗工液に混入していたり、塗工後に外部から飛来して塗工膜に付着したりして生じます。凹みが著しく基材表面が露出しているものはハジキ、凹みが軽微で基材表面が露出していないものはヘコミと呼ばれます。

図2 異物ハジキ
異物ハジキで塗工膜が凹むメカニズムを図3に示します。何らかの原因で、塗工液よりも表面張力が低い物質(異物)が付着すると、図2に示すように、塗工液は異物表面でハジかれて(異物に対する接触角が大きくなって)、異物のある場所から離れる方向へ拡張流と呼ばれる塗工液の流れが生じます。
拡張流による塗工液の流動が十分であれば、帰還流として中心部へ補充されるので凹みは生じません。膜厚が薄いと、塗工膜表面の抵抗のため帰還流の流れが不十分で、拡張流で周縁部へ移動した塗工液が帰還流で補充されないために、周縁部が盛り上がり、異物付近が凹んでしまいます。これが異物ハジキです。
異物ハジキには、凹み中心部に原因物質が残留している有核ハジキと、残留していない無核ハジキがあります。有核ハジキの原因物質は固体であることが多く、無核ハジキの原因物質は液体で、凹み形成後に蒸発してしまっていることが多いです。また、これら原因物質は、塗工後に外部から飛来する場合と、塗工液に潜在的に含有されている場合があります

図3 異物ハジキのメカニズム
前者の例としては塗工スペースに浮遊している機械・装置類の油、プラスティック系のゴミ、コンベヤレール等から落下した油にまみれた埃などがあげられます。また、同一の塗工スペース内で塗工されている別の表面張力が低い塗工液からのミスト(特にシリコーン系の添加剤)が原因物質となることも多くあります。
後者の例では、塗工液製造時のコンタミ(ポンプ類の油、配管や容器類への付着物、分散機の軸シール液など)、霧化塗装時のエアーに含まれる水滴(コンプレッサーのタンク中に溜まった水で、油をエマルション状態で含有)、印刷の際の版やブランケットの汚染などがあげられます。
対策としては、塗工液製造環境や塗工環境を清澄に保ち、低表面張力物質の侵入を防止することや、装置類からの混入に十分注意する(特に潤滑油類)ことが重要です。
ハジキ防止剤を塗工液に添加して、塗工液の表面張力を低下させることも有効です。ただし、ハジキ防止剤を塗工液に添加すると、ハジキは軽減されますが、その塗工液の塗工中もしくは塗工後に、低表面張力のミスト粒子となって塗工環境に浮遊することとなり、別の塗工液のハジキ原因物質となることがあるので注意が必要です。
ハジキ防止剤とその作用機構
ハジキ防止剤は表面調整剤の1種で、低極性部と塗工液相溶部から構成されています。構造の詳細については表面調整剤の記事を参照してください。
低極性部は一般的に表面張力の低いシリコーン鎖や炭化水素鎖などで構成されており、塗工液中では塗工液相溶部の作用で均一に塗工液に混じっています。
表面張力が低くて濡れ障害型ハジキが生じやすい基材に塗工されたり、低表面張力のハジキ物質が存在したりして、これらに塗工液が接すると、低表面張力の基材やハジキ物質表面は低極性なので、ハジキ防止剤は低極性部の作用で塗工液中から、これら低極性物質との界面に配向して塗工液の表面張力を低下させます。塗工液の表面張力が低下すると(1)式から、接触角は小さくなりハジキが軽減もしくは解消されます。
文献
1) 小林敏勝、「塗料大全」,p.141,日刊工業新聞社(2020)
2)小林敏勝、「きちんと知りたい粒子分散液の作り方・使い方(第2版)」,p.44,日刊工業新聞社(2025)