塗工液(塗料やインク)の製造時や塗工(塗装、印刷)時に巻き込まれた空気が、塗工液中に配合された界面活性剤や分散剤、バインダー樹脂などの界面活性作用で、泡となって塗工膜中に残留すると、ピンホール・クレーター・光沢低下・密着不良・耐久性低下などの不具合が生じます。このような問題が生じないように塗工液に配合されるのが消泡剤です。
消泡のメカニズムには、泡の発生を抑制する(抑泡)、液中の微細な泡を集めて表面に浮上させる(脱泡)、既存の泡を破壊する(破泡)の3種類があります。
抑泡作用は泡立ちが予想される塗工液に、それ自身は起泡性や泡を安定化する作用のない物質を溶解しておき、泡膜表面に界面活性物質と混合吸着させて、界面活性物質が安定な泡を形成するのを抑制する作用のことです。ただし、既に発生した泡への即効性は低い傾向があります。具体的には塗工液に溶解する低表面張力物質が抑泡作用を示します。有機溶剤系では炭化水素系溶剤など、水性系では低級アルコールなどが用いられます。
脱泡作用は液中の微細な泡を集合させて大きな泡にし、浮上させて除去しやすくする作用です。高級アルコール系や一部のワックス系消泡剤がこの作用に優れますが、主に水処理、樹脂・ラテックス製造、発酵工業などで用いられ、塗料やインク用の添加剤として用いられることは稀です。
一般的に塗料やインク用の添加剤として使用されている消泡剤は、おおむね次項で説明する破泡作用を示す化合物になります。もしくは先述の抑泡作用を示す炭化水素系溶剤や低級アルコールも消泡剤と呼ばれることがあります。また、消泡剤の一部には、疎水性シリカ、ポリウレア、ポリアミドなどの疎水性粒子を配合したものがあります。疎水性粒子を配合することで、泡膜の安定化をさらに阻害し、消泡効果を高めることができます。
- 消泡剤の破泡作用
破泡作用とは、図1に示すように泡膜に消泡剤が侵入し、その表面で消泡剤の液滴が拡張して泡を破壊する現象です。疎水性粒子に担持させることで、泡膜に浸透しやすく泡を効率的に消せるとされています。

図1 消泡剤の破泡メカニズム
図1のメカニズムが進行するためには、泡膜の表面張力が消泡剤の表面張力よりも大きくて、泡膜の方が表面張力で縮んで消泡剤が薄膜となって引き伸ばされ、最終的に敗れることが必要です。
消泡剤は表面調整剤の一種で、レベリング剤やハジキ防止剤など他の表面調整剤と同様に、分子は低極性部と塗工液相溶部から構成されています。塗料やインクなどの塗工液状態で保管されているときには、塗工液に均一に混じっている必要がありますが、消泡作用を発現するときには、塗工液から分離して空気界面(塗膜表面や泡膜表面)に移行する必要があります。この動きの原動力になるのが、塗工液と空気の極性の違いです。
空気は非常に低極性の気体ですので、塗工液中の低極性物質は空気界面に集まります。気泡内部も空気ですから、気泡膜には低極性物質が集まりやすくなります。
使用する塗工液に応じて塗工液相溶部の構造は選択する必要があります。また、低極性部の構造はポリシロキサン構造と炭化水素構造が代表的で、前者は「シリコーン系」、後者は「非(ノン)シリコーン系」と呼ばれます。
この構造は、他の表面調整剤の構造と同じですが、レベリング剤やハジキ防止剤などに比べると塗工液との分離傾向が大きく、レベリング剤が塗工膜表面に連続的な薄膜を形成するのに対し、消泡剤は不連続で粒子状に分離し泡膜に侵入します。このため、消泡剤は他の表面調整剤よりも低極性で高分子量となっています。(図2参照)

文献
1) 川西洋介、工業塗装、No.221, 17